2005年7月14日木曜日

帰ってきた雄山鉢

過去のつれづれ草「2003/11/28 雄山鉢考証3・雄山絶品」を見た熱心な雄山鉢ファンから
この作品を探し出せないか、との依頼を受けました

このような依頼を受けても、私自身が売り先を忘れていたり
また例え行き先が分かっていても、売ってくださいとは言いにくかったりして
何かの偶然でもなければなかなか再入手が難しい場合が多いのです

ところが、今回は相手が同業者なので「もう2年近くも経つから、きっと売ってしまったはず」と思いながらも聞いてみると
なんとまだ手元に所有していたのです

「それじゃあ、売ってくれるかい?」と訊ねると
「ああ、いいよ」とこれまた意外にあっさりとした答え

ふつうはこんなことはありません
たいがいは、ああだこうだと言われて断られるのがおちなのです

さっそくその所有者を訪ねてみると、そのあっさりの理由がわかりました
彼は、ほれ込んで温めておいたこの雄山鉢の足裏に窯傷のあることを、最近ふと気がついたということでした

インターネットの場合は、相手が愛好家ならもちろんのこと例えプロであっても微細な欠点まで説明するのが常識ですが
プロ同士、それも実物を見ての相対での取引の場合、あまり詳しい説明をしないのが盆栽界のの習慣です

それが相手のプロとしてのプライドを尊重する態度であり
お互いにこの世界で飯を食っているという虚勢に似た、一種の美学ともいえる嗜好なんですね

そんな訳で、私が窯傷について説明をしなかった可能性もありますし、説明したかもしれません
2年も前のこの雄山鉢の取引の際のやり取りについては思い出せません

しかし、今となると「お互いに承知の上での取引」ということになってしまいますね
(決して自己弁護ではないですよ、彼も私を咎めるようなことは一切口にしませんでした)

あとはこの窯傷をどのように評価するかの問題です
そして、私から見ると、彼はこのことを過大なマイナス評価として認識していたということです
(これが私にとっては幸いなことであったことはもちろんです)

そのために、意外にあっさりと手放してくれたのですね
さて、その雄山鉢をとっくりと鑑賞してみましょう


藤掛雄山  染付山水図外縁隅入雲足長方

昭和50年代に製作された作品
構図、筆のタッチ、呉須の濃淡など、雄山絶頂期の仕上がりです

中期以後にはあまり見られない外縁隅切のすっきりとしたボディーの形状にも特徴があり
鉢としてのバランスも品格があります


湖水の岸辺に連なる家並みの図柄は珍しく、奥行きのある雄山絵画の世界が展開されています


すっきりとした形状も際立っています


走り過ぎない落ち着いた筆のタッチ、しかも疾走する馬は躍動感がみちています


側面 呉須の濃淡がみごとですね


雄山独特の物語性が感じられる世界です


このような長方形に囲まれた落款は昭和50年代のもので、レベルの高い作品が多いのです


さて、問題の窯傷の部分拡大図です


私がこの窯傷をごく軽微と断定する根拠は、表面の釉薬部分には達していないからなので
高水準のこの作品のレベルからして、価値観をいささかも損ねるものではありません

傷の判定評価は難しいものですが、それ当たってまず考慮すべきことは

1 作品自体のレベル(その作家の作品中においてどのレベルの作品であるか)
2 傷の性質(ニュー、ポツ、窯傷など)
3 傷の箇所(縁、胴、足、などの表面なのか、もしくは足や鉢裏など表面以外なのか)

以上の3点が大切なポイントです

この雄山鉢に当てはめてみると

1 雄山作品群の最高レベルである
2 表面に達していない窯傷である
3 表面に出ない箇所、つまり足裏の部分にあたる

みなさんお分かりですね
このような場合は過大なマイナス評価をする必要はないケースですよ
神経質になり過ぎると、かえって名品を逃すことになりかねません



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(参考資料)

2003/11/28 雄山鉢考証3・雄山絶品

この項を書いている間に、昔馴染みの雄山の絶品に巡り会い手に入れたので
もう一日分「雄山の考証」を書くことになりました

この雄山鉢は 、雄山の文字を二重に囲ってある落款から
昭和50年代の作品と識別できます

絵は非常に繊細で、呉須の色調もいいようでし
形もすっきりとした仕上がりです

足の作りも小さめで、雄山独特の鉢底の装飾もありません
初期の作品はまことに簡素な印象です


湖畔に張り出した家並みが繊細かつ正確なタッチで描かれており
遠近感が巧みに表現されています


側面をのぞく角度より
ボディーの隅がくっきりと切れています
これは昭和60年代以後の作品にはあまり見られない特徴でしょう


落款は二重の線で囲まれています
これは昭和50年代の作品であることを示しています


足の作りはやや細め、低めです

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