2018年10月21日日曜日

平安東福寺の落款

平安東福寺の落款についての話題に触れるとなると、ちょっとやそっとの紙数では間に合わなくなるでしょう。東福寺が用いたその種類の多さや、捺し方の特徴などにしても簡単に話題はつきません。
平安東福寺でもっとも知られた落款といえば、東福寺と記された楓の葉でしょうね。次には手書きの落款や縦に小さく東福寺と印したものが代表的な落款といえるでしょう。反対に希少な落款としては「ふくべ」などが有名でしょうか。

ところで今日ご紹介するのは、東福寺の落款の中でもその稀少性においては最右翼に属するもので、ほとんどのひとが見るのが初めてという代物です。

東福寺と印されたこの小さな落款は、東福寺のいくつかの落款集においても確かに紹介されております。それらによると、東福寺鉢によくある一つの鉢に複数の落款が押されている場合には、添えの副款(ふくかん)として用いられることが多く、単独での使用例はめったにないということです。ところがこの白釉の丸鉢においては珍しく単独での使用となっています。私にとってもこの楕円の落款だけが捺されている東福寺は初めてです。

志野焼風の渋い氷列の釉薬と素朴なボディーの形状が新鮮なイメージです。この鉢の以前の持ち主はIさんとおっしゃる私よりもひと回り年上の愛好家さんで、骨董にも目の利く方でしたので、鉢の鑑定をめぐってのよい喧嘩相手でもありました。

水穴と比べても落款の寸法が小さい認印風なのがわかりますね。約一年ばかり前に亡くなったので、今ではIさんを思い出す懐かしい遺品となってしまいました。

この角度から見ると東福寺と上から読めます。

氷列がくっきりとして、穏やかな釉薬の雰囲気にある種の緊張感が感じられます。使い味もなかなかのですね。

という訳で、珍しい落款の東福寺鉢のお話でした。



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