2014年3月21日金曜日

安部性もみじ取木素材・骨格作り

かつて盆栽研究家として活躍した安部氏は
自他ともに認める「もみじ気違い」として有名でした

その安部氏が発見し命名した安部性もみじ
小さく端正な葉形と節間(せっかん)の短い繊細な枝先などが特徴です

今回のつれづれ草は、Part210で頒布中のその安部性もみじ取木素材
足元は古木感あふれており見どころがいっぱいです

是非とも斬新な構想をもって新しい命を吹き込み
常識にとらわれない個性的な樹形を目指したいものです


昨年の早春に取木施術し、入梅に親木から切り離して根作りをしてきた素材
そのため、主要な幹筋の芯は徒長させて樹勢の促進を図ってきました

まずは、左側に立ち上がった幹が将来の主幹と想定されます
次に、右へ斜めに立ち上がった幹は副幹として活用しますが
この副幹は総体の構図の中において、差し枝としての役目も兼ねることを頭においてください

目指すのは、この2本の幹を中心にしながら周囲に幾本かの子幹を配した株立ち状の樹形です
ですから、副幹は右方向への動きを演出する重要な役目を担うわけですね


後ろ姿


まずは主幹の足元付近の不要芽の整理をします

指で押さえている赤点付の2本の枝
どちらか1本を残したいのですが、あなただったらどちらを切りますか?


ほとんど同じ位置から複数の枝が出ていて
そのうちの1本だけを残す場合の大切な基準のひとつは

節間(せっかん)の短い中くらいの勢力の枝を残す

その基準に従えば、↑の見本の2本の枝では
元に芽のない上よりも、枝元に芽がある下の枝の方が優れていることがわかりますね

このように、枝元近くに節があって、なお、節間の短い枝を残します


節間が伸び過ぎたり位置や方向の悪い枝を少しずつ除去します(消去法の精神で)


剪定が進んで少しずつ主要な骨格が見えてきましたね
そしてここらあたりでもう一つのポイントです

このような初期の段階での構図を決める選定の場合
枝数をやや多めに残しておくこと

これからの培養段階で構図変更も十分考えられますから
現段階で必要な枝をすべて決めることは危険です


前面のコブを又枝切りで削りました
このような大きな傷痕は切り出しナイフなど鋭利な刃物で丁寧に削り直しておくこと


枝数はまだまだ多すぎますが
あらかたの構図は決まりました



右の画像は剪定前、左が剪定後です
全体の枝数は半分ほどになりました

枝数をやや多めに残す意味は上記の理由だけでなく、樹勢の維持という面も考慮に入れています
ある程度の葉数があったほうが根は活発に活動しますね


剪定後の後ろ姿です
こちらから見てもまだまだ枝数が多く、不要枝がたくさんありますね


将来図を描いてみましたが、培養過程で計画変更も十分考えられます
木は人間の想定を超えた思わぬ成長をするのもですからね

「木は木なりに作る」という有名な先人の教えがありますから
謙虚な気持ちで自然と接する柔軟な心構えもたいせつですね

それでは!

2014年3月6日木曜日

長寿梅大量入荷!

盆栽屋の本格的な春は、何といっても2月初旬の「国風展」で幕を開ける感じで
作業もそのころから忙しくなり、人々の動きも活発になってきます

加えて今年から、同じく上野の都立美術館で日本水石協会主催の第一回「日本の水石展」が同時開催されことになったので
スケジュールの混雑は個人的にも覚悟はしていたのですが

日本列島をまるごと呑み込んだあの大雪のせいで
身動きはとれず、雪かきで疲れるわ、たいへんな2月になっちゃいました

そんなわけで、やれやれ2月の〆は下旬の第37回の「千葉県盆栽名品展」かな、と思っていたところ
30代のころからお付き合いのある隣市のYさんから突然電話があって

「おれだよ、しばらくなんで忘れちゃったかよ、おれだよ、おれッ
持ってる長寿梅、ぜんぶ売ってやるからすぐに遊びに来いよ」

そういって電話のむこうで笑っているYさんでしたが
一瞬のうちに記憶をたどってみると、そう、たしかにこの10年くらいは空白になっていました

まったく盆栽人の時間の観念は悠長なもので
年単位どころか、人生を長くやってきたせいもあって、とうとう何十年単位になってきちゃいました(笑)

Yさんは五葉松や黒松、雑木類では長寿梅が好きなベテランの愛好家さんで
私の目から見ると、特に長寿梅の培養が上手で、年は私よりも半周りほど年上の静かな方です

むかし、上手に仕上がった長寿梅の株立ちを
しぶるYさんに無理をいって何度も分けていただいたのをよく覚えています

さて、そのYさんの電話の要件は、盆栽の数が多くて手が回らなくなったので減らしたい
ついては私にその処分を頼みたい、そういうことでした

数日後にお訪ねしたYさんの日当たりのいい盆栽置き場で
想い出話に華を咲かせながら譲っていただいたのが、↓の画像にある長寿梅20鉢

Yさんは私が長寿梅大好き人間であることを覚えていてくれたんです
それでお声をかけてくれたんですね、これには感激しました

「ミヤちゃんはおれの作った長寿梅、よくねだりに来たっけな」
Yさん、お声をかけてくれてありがとう、そして、こんども格安で譲ってくれてありがとう

それにしても、今年の2月はまたまた忙しくなりました、とても〆どころではありませんよ
これだけ大形の長寿梅、ムロ出しの時期が来たら、我が家の棚には置ききれませーん

樹高65cmの長寿梅株立ち
薄型の楕円鉢は間口70cmもあるんです(大きいなぁー)


枝のほぐれが凄いでしょ
培養管理もよく樹勢も最高


こんな感じの長寿梅が20鉢
Yさんが愛情を注いできた宝物です


長寿梅の魅力は、何といっても木肌の荒れと小枝のほぐれ
その点はYさんの培養は完璧、枝先の適切な摘まみ込みでご覧のように密な小枝がみごとです

樹形も、単幹、双幹、株立ち、吹き流しなどと多様で
あれこれとしばらくは楽しめそうです

そんなこんなで、とても忙しい2月となりましたが
さて、3月はどんな日々になるのでしょう

ともかく、がんばります!

2014年2月21日金曜日

植え替えのポイント(超初心)

水やりや剪定と並んで、盆栽が盆栽であり続けkるためには
植え替えがもっとも大切な作業であることを、すべての盆栽人が当然心得ていると思い込んでいる私ですが

この基本中の基本作業もまったく知らない超初心の愛好家さんに
ごくごくたまーに出くわすこともあります

つい最近も、盆栽に関心を持ち始めて間もない方から
なんのために植え替えをするのか、と真っ向から質問を受けてちょっとばかり面喰いました

1 植物の根を切ることにより、古く老朽した根を新しいものに更新し
  樹の勢いを保ち続ける(再生能力を利用した生命力の維持)

2 同じく、老朽した用土を新しくして
  水や空気の流通をよくして根の成長を促す(環境管理による成長の維持)

3 鉢内の根の不均衡を矯正し
  盆栽がバランスよく育つようにする(盆栽樹形の美しさの維持)

などなどルルご説明させていただいたが
果たしてご理解いただけたか?

そのことが契機になったのでしょう
ごくごく超初心の愛好家さん向きに、植え替えの超基本の記事を書く気になりました



植え替え作業のポイント
水穴をふさぐために底網

目の粗いものと細かいものが市販されています
用土の粒の大きさによって使い分けましょう



鉢の水穴から底網がずれて、用土が漏れている素材に出会うことがあります
ちょっと太めの針金で底網ずれ防止の止め金を作りましょう



こんな感じにキッチリ止めましょう



この止め金が本式ですが
ずれなければどちらでもよし

次に、根を固定するための針金を用意します
根を縛る針金が2本用と4本用



水穴が1つの場合



針金が2本
水穴の裏側のようす



水穴が2つの場合
縛る針金が4本だと植え付けがしっかりするのでお勧めです



水穴が1つで縛る針金が2本の場合、植え付けた盆栽が不安定になりやすい
そんな時は体裁にとらわれず、植えた盆栽が揺れないように、とにかくしっかりと固定するのが先決です

入梅過ぎるころには新しい根が鉢内で伸張して盆栽が安定しますから
補助の針金を切り取っても大丈夫ですよ



根の少ない挿木素材などは、水穴から通した針金で縛っても効果がありませんから
図のようにビニール紐で固定するのがいい

この場合も、入梅過ぎには苗も安定しますから
紐を切っても大丈夫です



水穴が1つで縛る針金が2本の場合で、取木素材で根が少なかったため
下方の枝に針金を持たせて固定しました

これも体裁よりも実質を重視した方法
かっこ悪いけれどこれが一番なんですね

以上です

最後になりましたが
とにかく植え付けにおいては、盆栽がぐらつかないことが活着の第一条件であることを肝に銘じてください

そのためにあらゆる知恵を出して
ご自分なりの方法も工夫してくださいね

では!

2014年1月20日月曜日

舞姫超ミニ逸品素材ゲット

昨年の入梅前に取木(環状剥皮)をかけ
30~40日間で親木から取り外して4号鉢にいれておいた素材が約30本

いよいよ根さばきと樹形の基本を見きわめる時期がやってきました

将来の基本樹形を想定しつつ、発根の状態をよく調べながら
必要な根張りは残し余分な根は除く作業です

各々の将来を左右する大切な段階ですから,楽しみも大きいんですが
選択に迷うような悩ましい局面もあり、なかなか難しいこともあります

この作業の適期は、各樹種の植え替えの適期にやればいいので
もみじ類であれば、今ごろから3月中旬くらいに行います

今ごろだとまだ寒いさなかですから、植え替え後の保護はキッチリしましょう
保護設備のない方は、ちょっと時期をずらした方が安全ですね


昨年の入梅ごろに取木をかけて発根した舞姫のつれづれ草を参考にしてください

   

発根して親木から親木から切り離された素材は
現在こんな感じで保護室に囲われています

深めに植え込まれているので
足元は見えないので、どのような樹形かは判別ができませんね

何が出てくるかは
蓋を開けてのお楽しみ

注)幹枝についた白い斑点は
石灰硫黄合剤の消毒液が乾いてこびりついたものです


作業が始まってから何本か目のこの素材
む、む、なんかいい予感がしますよ

はじめは株立ちと思っていたんですが
どうやら単幹で、それもかなりの太もののようです


このような樹形と根張りを見きわめる作業のときは
上からばかりの攻めにこだわり過ぎて失敗することがあります

途中で方向を変えて、今度は下からも攻めて
慎重に少しずつ素材の全容を明らかにしていきましょう


途中で水で洗ったりもして、どうやら概要が見え始めましたね
どうやら、太幹の本格的な模様木のようです

しかし、ここで嬉しがって先を急いではいけませんよ
これからが繊細さが要求される段階です


こんな感じの模様木でした

根張りが八方に張っていて立ち上がりが抜群
幹の模様とコケ順もイケてるし、枝数も多いので姿を出しやすそう

こりゃ、間違いなく逸品素材だ!!!


頂上の赤線あたりの高さが約6.0cmです
最終的な樹高は7.0cmが目標

赤線で記した枝は荒切りしておく箇所で、将来不要と思われます
一方、赤点で示したのは、将来にわたり重要な役目を果たすと予想される枝や根です

いずれにしても、この段階では明らかに不要と思われる枝だけを除去し
全体にやや多めに枝を残すのが賢明な方法ですね


さて、取木箇所の処理にかかります
この作業も大切ですよ

環状に剥皮した箇所の下部にカルスが巻き過ぎないように巻きつけておいた針金が見えますね
この針金を取り除く作業から入りましょう


又枝切りやコブ切りなどのハサミを使って
えぐるように親木(台木)の残存部を切り取ります

この作業を怠ると、この部分にいつまでも肉が巻かずに
しまいには、この部分から木質部の芯が腐れ込んでしまいます

必須の作業


こうやっておけば1年で傷口に肉が巻いてしまいます


傷口はカットパスターで保護しておけば万全
ただし、ペースト状(ソフト)だと乾きが遅いので向いていませんね


さらに根を整理します

枝は荒切りでもいいのですが、根はやり直しが利きにくいので
この段階できっちりと追い込んで、あとで後悔しないようにしておきましょう


植え込み前には赤線あたりから根を短く切り詰める
怖がって根の切り込みをためらうと、根が走り過ぎて化粧鉢に入らなくなりますよ


いよいよ植え込みです

この場面でのポイントは、植え込んだ素材が揺れないようしっかりと固定すること
用土は赤玉土を主体にして砂を少々、底にはゴロ土も忘れないように


正面拡大図


ボディー

いやー、取木ってお得感がありますねー
たった1年間の辛抱で、こんな素晴らしい本格模様木がゲットできちゃうんですからね


足元が隠れるくらいに多めに用土を入れます


湿気の多い保護室へ入れるので、トップジンの乳剤(1.000倍液)で消毒しておきます
カビ類などの病原菌対策です


幹や枝も消毒


ビニールハウスの中に作ったトンネルが置き場所
気温は零度近くになりますが、凍結はしません

春まではこの保護室で春を待ち
いよいよ本格的な木作りに入ります

そのころになれば頒布コーナーに掲載できるでしょう
楽しみにお待ちくださいね