2019年5月30日木曜日

瀬田川石(馬場家旧蔵)

この瀬田川の虎石も馬場利一氏の旧蔵品です。特徴的な形状もさることながら、何よりも目立つのはその持込みの古い時代感でしょう。

間口36.5×奥行き13×高さ7.5cm

正面やや上方より眺めると、左右対称に小高い丘陵をいただき、土坡のような広がりが非常に雄大です。このような形にとらわれない型破りな審美眼は、さすが当代随一の愛好家であると云われる馬場氏の面目躍如たるものがあります。

個性的かつ雄大な魅力の景色。かなりの時代感で虎石の縞が識別できない箇所がありますが、よく見ると時代の下にはっきりと虎の文様が見られます。

真上からの鳥瞰図はさらにスケールが大きく見えます。どこか古代の前方後円墳のようなかんじもしますね。


黒檀製の高級台座。馬場利一のシールが貼られています。

シールの拡大図。

2019年5月29日水曜日

加茂川石(馬場家旧蔵)

現在の水石界におけるコレクションにおいて、馬場利一氏のそれは、質量ともにまさに斯界におけるトップクラスといえましょう。最近その一端(10点ほど)がある競り市の目玉商品として出品される機会に出会い、幸いそのうちの2点を落札することができたので、ここでご紹介することに致します。

加茂川真黒石(間口19.5×奥行き10.5×高さ6.4cm)
形状は亀の子の姿石とも見立てられますが、地肌のきめ細かい加茂特有の真黒(マグロ)の美しさを素直に眺めて見るのも一興でしょう。

前述の通り。加茂川の良質の真黒で亀の頭部を彷彿させる形状をしており、艶やかな細かい石肌は全くのウブでゆったりとした品格ある形状をなしています。

後姿も柔らかい曲線に囲まれていい感じのフォルムです。

紫檀製の台座の出来上がり具合もすばらしく、無銘ながらかなりの名人達者の作品であることがうかがえます。

台座の内側の微妙な鑿の跡も観賞の大切なポイントです。

石の微妙な変化にあわせて削り出す高等なテクニックとセンスは抜群の冴えを見せています。
まさに見ごたえのある高等時術といえましょう。





2019年5月17日金曜日

掘り出し物(山もみじ)

私達が所属する日本盆栽協同組合の本拠地である「上野グリーンクラブ」は、上野公園内(上野動物園に隣接)にあって、組合主催の盆栽展示会のほか、毎月一回の公設の盆栽競り市が開かれます。公設であるためにその競り市には一般の愛好家さんは参加できませんが、クラブ内には常設の売店がもうけられており、大衆的な盆栽素材から高級品までが常時定価販売されています。
そこで、時間のあるときなどは私達(プロ)も、たまにはじっくりと売店内を見て歩き、掘り出し物探しに精を出すこともあるんですよ。この売店へ出品されているのは私たちと同じプロの盆栽屋なので、いわば、同業者の同士討ちと云うことになるんですね。

5月16日(木)は午前10時からの通常総会が早めに終わったので、穏やかな薫風に吹かれながらのんびりと掘り出し物探し。

私と同じ千葉県内の業者が出品している山もみじの懸崖が目につきました。かなり古い木で全体に根上がり状。こちらが正面のようです。
幸い本人も居たので、電話でなく直に値段の交渉ができるのがうれしい。

裏から見ても根と下垂した幹の模様はなかなか味がある。そしてミニながら力感も感じられる。

幹の古さは抜群で、切り傷もない。深山奥山の岸壁にかろうじてへばりついた険しい風景です。

値札を見る。これが廉い! 
なんと¥19、000と記されているではないか。個性的な樹形、この古木感、で、この定価!
定価のままで買ったって、後悔するようなことはない。しかし我が盆栽屋.comには家訓とも云うべき根切りのテクニック5ヶ条がある。その第2条にしたがえば、定価が廉いときは必ず値切れ、とある。

家訓に従い廉いのを承知でさらに冷徹に値切って、¥13、000で交渉成立。まさにに特別価格!!

この角度も味わいがありますね。葉性も細かくて枝先も繊細で素質は上々。


厳しい断崖を彷彿させる景色。紅葉時などはさらに見ごたえがあるでしょう。

徒長していた新芽を摘み込み、片葉透かしを施してフトコロに風と日光を供給してやろう。

現在はこちらを裏側としますが、根の変化が捨てがたい味をもっているので
正式には落葉後に決めることとします。

2019年5月14日火曜日

第14回国風展(昭和16年)

第14回の国風展は昭和16年の3月、やはり東京府の上野美術館で開催されています。毎度同じことを申し上げますが、アメリカ合衆国と太平洋を挟んで対峙した日本帝国の真珠湾攻撃まで一年を切って風雲は急を告げる慌しい世相にも拘わらず、この写真帖から伝わってくる展示会場の風景はあくまでおっとりとして、優雅です。

真柏の産地は写真からはわかりませんが、山採りの優良素材が豊富であった当時のことですから、まず糸魚川産に間違いはないでしょう。ぎりぎりまで小さ目の鉢を使用して幹の迫力を強調しています。

北海道産の蝦夷松。やや小ぶりながら幹筋や枝の表情に抜群の味わいを見せています。

松平侯爵の小品盆栽席飾り。現代のミニ盆栽に比べてやや細身な感じがしますね。これを称して、今の盆栽は肥満児だ、とおっしゃる大先輩の方々もいらっしゃいますが、一口に言うと、昔に比べて肥培技術が格段に向上した結果であることがまず第一の理由だと思います。

酒井伯爵の小品盆栽席飾り。


2019年5月10日金曜日

第15回国風展(昭和17年)

まさに太平洋戦争勃発寸前の昭和16年11月(12月8日真珠湾攻撃)、第15回国風盆栽展示会は東京上野の府立美術館に於いて開催されました。先日押入れを片付けていたらその前後の数年間の記念帖が出てきたのでご紹介いたします。

第15回国風盆栽展覧会記念帖 上野公園東京府美術館に於いて 

布製のハードカバーの上等の製本です。発行人は国風盆栽展の父とも称される小林憲雄を代表とする国風盆栽会です。

会長の松平頼壽伯爵のミニ盆栽飾り。杜松、小姓梅、ぶな、五葉松けやきなど、あまりにも有名な松平伯爵のコレクションです。古い写真であってもミニ盆栽の愛嬌のよさはもちろんのこと、卓台や鉢の素晴らしさも見てとれる貴重な画像です。
これらのコレクションの多くは惜しいかなその後散逸して、私などもその中の何点かを蔵する機会に恵まれたこともありました。


副会長の酒井忠正伯爵のミニ盆栽飾り。松平伯爵とともに戦前のミニ盆栽会を牽引された大家です。20年ほど前に、この酒井公遺愛の名鉢を数点まとめて手に入れる機会に恵まれたことを思い出しました。